ゲノム編集は日常医療になるのか：倫理と臨床の現在地、He Jiankui事件を手がかりに

Изображение сгенерировано нейросетью Dall-e

6年前、科学界は最も騒がしいスキャンダルの一つをくぐり抜けた。中国の研究者 He Jiankui が、DNAを改変された子どもが誕生したと公表し、衝撃と論争、そして山のような疑問が一気に噴き出した。いま、ゲノム編集をめぐる空気は当時とは違う。道具は成熟し、議論の幅も広がった。

2024年に何が変わり、なぜ多くの研究者が遺伝子編集はいずれ標準医療になると考えるのか。その背景をたどってみよう。

DNAの編集はすでに現実に

医学博士の Vladimir Taktarov によれば、人のゲノムへの介入はもはや抽象論ではない。重い遺伝性の血液疾患に対する修復を認めるプロトコルは既に整備され、実際に成功例もあるという。もはや思考実験ではなく、厳密に定義された臨床の領域に足を踏み入れている。

焦点は、いま根本治療のない病気だ。嚢胞性線維症、重篤な先天性肝疾患、遺伝性の酵素欠損などが挙げられる。遺伝学者の説明では、こうした問題は驚くほど頻繁に現れ、患者6〜7人に1人の割合だという。

胚の段階での介入が理想とされる理由

Taktarov は、最適なタイミングは発生のごく初期、胚がまだ数個の割球にとどまる段階だと述べる。体外受精の現場でもこの発想は一部取り入れられており、医師は重い変異を避けるために着床前診断で細胞を調べる。遺伝子修復も基本は同じで、欠陥のある遺伝子を直し、修正されたセットのまま胚の発育を進めるという考え方だ。

過激に聞こえるかもしれないが、現代の生物学においては実現可能な範囲に収まっている。

最大の障壁は技術ではなく倫理

技術は先へ先へと走る一方で、より難しいのは使い方をどう定めるかだ。遺伝学者は、ロシアでも多くの国と同様に、中心にあるのは倫理だと強調する。最大の懸念は商業化であり、患者を救うのではなく、見た目や資質を「注文生産」するために遺伝学の道具が使われることだという。Taktarov は、規制は法律だけでなく、科学コミュニティ内部の個々の責任にも支えられるべきだと考えている。世の中の不安は、何ができるかより、なぜそれをするのかに向いているのだ。

He Jiankui の実験──今も残る疑問

議論が大きく燃え上がったのは2018年の中国での件だ。CCR5遺伝子を編集された双子の女児が生まれ、この遺伝子はHIVへの感受性に関わる。父親の病気を理由に両親は介入を選んだとされる。だが主要な科学誌に論文は出ておらず、手順の詳細や女児たちの経過を示す信頼できる記録はない。研究者は実刑判決を受け、3年の服役後、子どもたちは健康だと述べた。

裏付けは示されておらず、そのことが世界の科学界をいまも落ち着かない気分にさせている。

ドリーの羊を想起させる一件

Taktarov は、この展開は既視感があると指摘する。クローン羊ドリーが生まれた当時も情報は乏しく、影響の評価をめぐって長く議論が続いた。中国の双子の状況もそれに似ている。研究者たちは正式な医療的フォローを望んでいるが、これまでその種のデータは公表されていない。

遺伝子工学の行方：日常化か、それともリスクか

白熱する論争にもかかわらず、遺伝学者は、ゲノム編集はいずれ日常の医療になると確信している。かつて体外受精がそうだったように。とはいえ中核のリスクは残る。DNAを扱うのは一種の外科手術であり、外科が常に完璧な結果を約束することはない。誤差の余地は必ずある。

それでも歩みは後戻りしない。遺伝子の修正がニュースにならない時代へと、人類は少しずつ近づいている。